不登校が増えている。不登校の原因で最も多いのは人間関係。年代では中学生だ。小学生ではそこまで自我が発達していないし、高校生は義務教育ではないので退学や転校を選ぶからである。不登校は甘えではないし、教育の多様性が叫ばれている。それでも他人事なら訳知り顔で学校なんか行かなくて良いとうそぶいて見せるかもしれないが、自分の子どもだけは普通に学校に行かせたいのが本音だろう?どうすれば良いのか?意外にも親子関係にヒントがあるので、今回はそこをひも解いていこうと思う。
目次
改善のカギは親子関係にあった
前回の記事で不登校の子どもへの理解の重要性と親の覚悟について書いたが
今回はその具体的な不登校改善の方法について解説したいと思う。
不登校になってしまったら
不登校になった山口君の話
不登校の相談を受けていると、不登校の経験を乗り越え学校に元気に通っている生徒の話を聞く機会も多い。
不登校相談を始めた当初に保護者と一緒に相談に来た中2の山口くん(仮名)の話を聞いた時の印象が強く残っている。
山口くんは明るく活発で学年のリーダー的存在なのだったが、中2に上がった頃同じようなタイプの生徒と対立しクラス内でのポジション取りに敗れ精神的苦痛から不登校を経験した。
そんな彼がのちに不登校を克服した時に語ってくれたのが保護者との関係であった。
家から出ない山口君に母親は「何があったの?」と理由を尋ねる。クラス内のカーストに敗れた山口君が正直に答えるだろうか。多感な中学生である、男としてのプライドもある。
「良く分からないけど学校に行けない」と答える山口君。そのまま月日は流れる。
この大人から見て理由が分からないパターンは非常に多い。しかも本人自身も分からないケースも良くある。焦ってさらに追及したり、定期的に「そろそろ学校に行かないと勉強遅れるよ。」などと促してしまうと逆効果だ。
しつこく登校刺激をしてくる母親の言葉も無視する様になり部屋に閉じこもる時間が増える。
そこで私は母親に学校の話を一切口に出さないようにアドバイスした。
反対に、息子が家にいるこの機会に積極的に話を聞くように促した。母親は息子の事を何も分かっていなかった事に気づき、テレビの話題や山口君の趣味のゲームの話などに一緒に参加し感想を言い合ったりした。
当時学校の事は考えるだけでも憂鬱な気持ちになり、そのことを話するなどもってのほかだった山口君も、根底にある話を聞いてもらいたいという承認欲求は人並みに持っていたので、自分の趣味の話を聞いてもらうのは楽しかった。
次第に親子の関係も良くなり、「自然と、楽しいとか、それはやりたくないとか、これをやりたいとか伝える事が出来るようになったんです。」と山口君は言った。
母親はいつでも自分の味方でいてくれる。困った事や嫌なことがあった時は話を聞いてくれる。自分には家に安心安全な居場所がある、と思えた頃、「学校に行ってみようかな」と山口君は母親に伝えたという。母親は涙が止まらなかったそうだ。
本音。親は学校に行ってもらいたい
子どもが不登校になった時、どの親も動揺し、あらゆる手を使って子どもを学校に行かせようとする。
日本は義務教育なので、子どもに教育を受けさせる義務がある。
それもあるが、人間の本能として、集団に後れを取りたくない、何なら人より優れていたい、という欲求がある。
親として、子どもには学校という集団に帰属し、競争の中で優位に立ってもらいたいと願うのだ。
わが子を思うが故に慌てて登校刺激をしてしまう。それが逆効果である事の典型例だ。
動物の本能が学校に行かせようとする
人間を生物学的に捉えると、集団の中で勝ち残って多くの餌を捕って来れる者こそ、異性に認められ強い種を残せる個体として子孫を作っていくことが出来る。
親としては種の保存の原則から言っても子どもに強くなってもらいたいと願うのは当然である。
わが子を学校に行かせ、多くの餌=収入を得る術を学ばせたい。
理屈じゃない。子孫を残し守って行ける者として異性に選んでもらえるようにしたい本能なのだ。
学校に行きなさいと、嫌がる子のお尻を叩きたくなるのは自然な事だ。
どうやってそれを成し遂げるか?
ただ、待っていてはダメ
子どもが再び学校(あるいは適応指導教室、フリースクールといった教室)に通いたくなるためにはやみくもに促してみても逆効果だ。
無理やり学校に行くようしかりつけるよりも、行く気になるまで待つよりほかはない。
かといって多くの識者の言うようにただ「待ちましょう。待ちましょう。」と言われても、いったいいつまで待てば良いのか解らないといった声も多く聞かれる。
実はこの「待つ」という行為は、ただ何もしないで待つという事ではないのだ。
結論。素直に言い合える親子関係
子どもが動き出すまで待つという支援方法において、ただ待っているだけではなく、待っている間にする事とはいったい何だろうか。
結論から言うと、子どもと何でも素直に話せる親子関係をつくることである。
その関係が出来ていない場合には何を言っても不登校改善につながらないに傾向が多く見受けられる。
遠回りの様だがまずは関係づくりからじっくり始めよう。
何でも素直に言い合える関係性が答えだ
ひとまず学校の話は置いといて、学校以外の生活の中の活動を増やし、何でも相談できる親子の関係を作っていく。
分かりきったことは聞かない
不登校の理由は複合的なものも多く、本人も解らない場合が有る。
しつこく聞くとかえってこじらせてしまい、関係を悪化させてしまう。
子ども本人も学校に行かなければいけないことは当然解っている。
それなのに行けない、理想と現実の自分にフラストレーションを抱えているのだ。
過剰な励ましは本人にプレッシャーとなり、最も重要な関係づくりが上手く行かなくなる。
解りきった事を何度も聞かない。しばらくはなにも促さずに何かをしたいという意欲が高まってくるのを待つといった忍耐が必要になってくる。
学校の話は後回し
会話が無くても一緒にテレビを見る、一緒に笑う。小さな要求を聞いてあげる。
あのタレントが好きだとか、この事件は酷いだとか、そんな他愛もない会話でいい。
思ったことを言い合えるようにするのだ。
まずは、子どもの話を聞くことだ。
親の願望は二の次三の次である。
話しやすい環境を作る
話しても無駄だと思わせない
それには、子どもの言動を否定しても気持ちは否定しない事だ。
他人の悪口はいけないが、許せない気持ちは解る、といった具合だ。
あなたの人間力が試される所だが、頑張って理解してあげるのだ。
「それは辛かったね」「痛かったろうね」と共感してあげるのだ。
親子に限ったことではない。人間力とは共感力である。
「気持ちは解る」この一言が相手を救うのだ。
何でも素直に話せる関係づくりに効果的なのは生活の活性化である
その他ペットを飼うなど、親が間接的に関わって何らかの新たな行動意欲を掻き立てる事も有効だ。
生活の変化によって、より話しやすい関係をつくっていく。
そのうち仕事や定期的な用事で親がしてあげられない家庭での役割を任せて、家の中でも体を動かす習慣を身に付けさせるといいだろう。
自分を価値ある人間だと理解させる
一日何もしなかったと思うと罪悪感が湧いてくる。そう思わせないように、生活を少しずつ充実させていこう。
何もせずにゲームや動画視聴ばかりだと、罪悪感から自己肯定感の低下につながるので自分の役割、家庭内の仕事を持たせることは必要で、今日は何もしなかったと思わせないことが重要だ。
そして、結果を見て必ずよくやったと承認してあげる事だ。
人間誰しも自分は重要な存在だと思われたいものなのだ。
自己否定が強い場合は、生活の中で小さな成功体験を積み重ねさせる事で自己肯定感を経験させ、自信を付けさせるのが良い。
やがて物足りなさから自ら話をしたり行動したりしたくなるのを待つ。
外に連れ出して行動させる
体が先、心は付いてくる
例えば外食やドライブ、ショッピングなど、魅力的ではあるが一人では行けない外出に誘い、家族はもとより、家族以外の人とも触れ合う機会を増やすのも一つの方法だ。
運動して体を動かすと脳内ホルモン「エンドルフィン」が分泌され心も活動的に動くことは科学的に立証されている。
あなたにもきっと経験があるはずだ。
散歩をすると気分が晴れやかになったり、カラオケに誘われて一曲歌うとまた次を歌いたくなったり、気分が高揚してくるものだ。
心のエネルギーを意識する
ハッキリとした運動でなくても、部屋でじっとしているより、何らかの理由をつけて体を動かさせるようにしよう。
そのようにして、次第に少人数から多人数のいる所へ、週1日から週2、3日へと外出場所、日数を変えていき、生活の中での刺激を増やしていく。そうすることによって心のエネルギーが蓄えられてくる。
精神的な打たれ強さや、元気や意欲の素を体力に例えると、それは心のエネルギーと呼べるだろう。
心のエネルギーは、喜び、安心、励まし、肯定、承認、感謝など日々のポジティブな影響を受ける事により与えられるものだ。
一言で言うなら愛の影響の総量だ。
与えた側も影響を受ける心のエネルギー
心のエネルギーは愛情を与えられることで増えるだけでなく、不思議なことに与えた本人にも反作用でエネルギーが入ってくることが心理学会の研究などで分かっている。
受け取るだけでなく、与える事によって倍の量の心のエネルギーが蓄えられるのだ。
積極的に愛情を与える事であなた自身も元気が湧いてくるから意識してみるといい。
少し、スピリチュアルな話になるかもしれないが、宇宙の真理と呼べるものなのだ。
宇宙の真理なので逆を考えてもやってはいけない事が分かってくる。
エネルギーを奪うネガティブな行動
憎しみ、怒り、恨み、妬み、暴力、差別、悪口、愚痴、などネガティブな行為を受けると心のエネルギーを失うだけでなく、それらの言動を行った本人の心のエネルギーも奪い、自らを傷つけやさぐれてしまうのだ。
その様な環境が続くとどうなるのか想像に難くない。
あなたや学校に心当たりがあるなら早急に改善が必要だ。
今すぐに、ネガティブな言動を止め、ポジティブな言動を心がけるようにしよう。
子どもの心のエネルギーは日々増えたり減ったりするもので、枯渇していると分かったら充填してあげる必要がある。
心のエネルギーが枯渇した子どもは、エネルギーの素となる愛情を欲して問題行動を取るようになる。
不登校も、明確な理由が無い限りもっと気づいて欲しい、見て欲しいというSOSかもしれないのだ。
子どもの日々の活動量、会話、笑顔の量などを観察し、心のエネルギー量に注目しよう。
学校復帰のためのステップ
まだまだスタートラインにも立っていない
環境づくりを慎重に
この時期にはまだ学校に関することを話しかけるか話しかけないか考えない。
元気と笑顔を取り戻したからと言って、すぐに学校をどうするかのような関わり方ではなく、日常の中の関係を大切に豊かにしていくこと。
焦ってはいけない。
外出などを通してさりげなく世間=学校の様子が知れるような環境作りをしておくことが大切だ。
次の段階では家の外の居場所作りとして趣味のサークルなどの定期的な外出が出来るようになると良いだろう。
焦らない、諦めない
このように、子どもを学校生活に復帰させるには、ただ過剰に支援しても、逆に支援しなさ過ぎてもいけない。
関係がこじれる事を気にしてただ何もしないで待っていると、「見捨てられた」との思いが芽生えてきてしまう。
親子関係が悪化して、そうなると不登校は長期化してしまう。
生活を大きく変える覚悟も必要
時には家族の生活を変えるほどの環境の活性化も必要なときもある。
子どもの新しい習い事やサークル活動に合わせて、仕事の時間配分や住む場所を変えたって良い。
子どもにも外部との交流の中で、学校行事や進路の話など世の中の動きが耳に入ってくるものだ。
時間を掛けて何でも素直に話せる関係づくりをして、少しずつ学校の話ができる様な雰囲気を作っていく事が大切なのである。
いつでも何とかしてあげると安心感を伝えよう
先にも述べたけれど、ほとんどの子どもは学校には行かなければいけないと思っている。
分かっていても不安なのだ。また上手く行かなかったらどうしよう、とネガティブな想像が頭を埋め尽くす。
そんな時、いつでも親であるあなたが味方でいてくれる。不安な気持ちを理解して相談に乗ってくれる。いざとなったら助けてくれる。そう思わせる事が不登校改善の第一歩だ。
だから、普段からの言いたいことを素直に言い合える関係性が重要なのである。
不登校改善はこれに尽きる。
少しずつジャブを打つ
親子の信頼関係が出来てくれば、放課後登校や保健室登校の話をしたり、どうしても地元の学校に抵抗があるならば適応指導教室やフリースクールといった違う場所を調べてきてさりげなく話をしたりする等、徐々に学校に関する話がしやすくなってくるだろう。
少しずつでも学校の話題に反応するといった変化が表れてくれば光も見えてくる。
必ず子どもは見てくれている
親の苦労に感謝している
実際に、不登校が改善した例では、保護者がいろいろと骨を折って学校以外の教室(市の適応指導教室や、フリースクール)を探して子どもに提案すると、それを受け入れるケースが多い。それは、子どもが親の真剣さ、自分の為に時間を割いてくれている事が分かっているからだ。すぐに学校復帰できなくても、あなたにいろいろな悩みを話してくれるはずだ。それにはやはり、親と子の良好な関係が不可欠だ。
子どもの本当の望みを分かることが親の望み
不登校になって元の教室に戻る事はかなりのハードルだし、そこに戻す事一辺倒では何も理解しない親に見えてしまう。子どもに一番必要なのは元の学校に戻る事ではなくて、学校教育を受けさせることだから、代わりの場所を探してあげる事が出来るはずだ。
子どもと真剣に向き合えばそういった子どもの望んでいるものも見えてくる。
トライ&エラーを繰り返そう
あくまでも作為的にならないように気を付けて、いろいろと試しながら変化が無ければやり方を変えてみる。不登校改善はこの繰り返しである。
「もし間違っていたらどうしよう。」「上手く行かなかったら自分の責任だ。」などと考えない事だ。
不登校の原因は複合的なものであり、一人の親のせいで不登校になる事はない。
まとめ
全ての人間関係に言える
最後に繰り返すが、不登校に限らずこれは人間関係の極意でもある。
何でも素直に言い合える親子関係の構築が近道だ。
- そこから子どもの望みを理解せよ。
- 自分の期待を押し付けないように
- 心のエネルギーを満たしながら
- 繰り返し支援して信じて待つという姿勢を見せよ。
その姿勢が子どもに伝わった時、絶望の地の底から希望の種が芽を出し、勇気の根が張り、親の愛情の陽を浴びてやがて花を咲かせる日がやってくるだろう。