日頃の業務の中で様々な形であなたはクレームを受けることがあるだろう。
そんな時、上手く相手の怒りを収めることが出来ず、結局嫌われて利益が失われたり、あるいは相手の要求のままに過剰なサービスを強いられたりして時間と費用を費やしてしまうこともあるかもしれない。
これまで3000件を超える様々な内容の相談を受けて来て、数々のクレームに対応して問題を解決してきた経験から、あなたがもしクレームを受ける立場で、上手く行かない時に向けたクレーム処理の本質について解説していこうと思う。
何も消費者や取引先との問題だけではない。日常の人間関係にも応用できると思うので参考になれば幸いだ。
目次
私たち自身がクレーマーを生み出している
ほとんどはクレームではない
あなたがクレーマーを生み出している
商品を扱う店舗スタッフであれ、学校や塾の講師であれ。
特に客商売サービス業をしている人はこれまで一度もお客様からクレームを受けたことが無いという人はいないだろう。
私もそうだった。
そして、そのたびにこう思ったものだ。
また、今日もクレーマーがやってきた。
なんてツイないんだ!試練の時だ!
だが、同じ仕事をしていてもほとんどクレーマーに会わない同僚もいる。
それはなぜか?
それは、私たち自身がクレーマーを生み出しているからに他ならなかったのだ。
まず、私たちは所謂お客様からの苦情を全てクレームだと表現してはいないだろうか?
自分の立場を正当化しようとする人間は、いや、ほとんどの働き手はお客様からの苦情をクレームだと言う。
そして、打ち合わせやカウンセリングの時に他人の批判や現状への不満を訴えるような人物の事を陰で「あの人はクレーマー気質だ」とか「クレームを言ってきた」と非難する。
だが、その中に本当に理不尽ないわゆるクレームをつけてきた人物がどれ程いたというのだろうか?
ほとんどいないはずである。
クレーム対応の実例から学ぶ
私が以前勤めていたある調査会社での出来事。
誤解から理不尽なクレームを入れてくる
まだ経験の浅かった私はある人物「甲」の行動調査の依頼を受けてきた。
依頼者の指定した1日だけの日時と場所(甲宅)から指定された2名の調査人数で対象者「甲」をどのように調査をするか指示を忠実に守るように現場の調査員と綿密に打ち合わせをした上で調査を実施した。
ところが、同じ甲宅でも依頼人との打ち合わせとは違う別の出口から甲が動き出し、見逃してしまった のだ。
そしてもし見逃していなければ依頼者の求める結果が出ていた事案であった。
依頼者は当然の様に営業担当者の私に電話でクレームを入れてきた。
出口が違ったとは言え、甲宅を2名の調査員で張り込んでいたのに、なぜ2か所の出口を見張っていなかったのか?これはそちらの落ち度だ、結果が出るまで無料でやり直せ、 と。
出口が1か所の場合左右どちらへも追跡できるように2名の調査員は両方向に車両を向け待ち構えるのだ。
もし、裏の出口から行動する可能性があれば4名体制が必要なケースであり、完全に依頼者の情報不足であった。
反論する前に謝罪せよ
ただ言い訳をするだけではなく事情を事細かに説明して、納得してもらえるよう何度も説得したが、情報不足を指摘された依頼者はますますヒートアップして消費者庁だ裁判だと諦める様子がない。
交渉を断念した私は上司に無償の再調査の許可を求めると、「その案件は無償での再調査出来ないケースだ。どうだろう、クレーム処理係に引き継ぐからその担当について勉強してみないか。」という。
紹介されたのは年下のおっとりした若い担当者だった。私は内心『あのクレーマーに何を言っても無駄だろう。お手並み拝見といこうか。』と思いながらまだ若いそのクレーム処理担当者の対応を横で聞くことにした。
相手は相当怒っている。最初に調査人数をケチった相手に責任がある。理不尽だ。と私は思い込んでいた。
にもかかわらず、その若い担当者はクレームを最後まで依頼者の感情に寄り添って聞き、
経験が浅い故こちらの聞き取り不足で2か所の出口から出る可能性があることを依頼者にもっと確認しておかなかった事、 2名体制では別の出口から出てきた時のプランが立てられない事など、事前に説明した時にもっと上のプランを強く勧められなかった事について 心から謝罪した。
依頼者も自分の指定した調査プランを実行した現場に不備はないことは分かっていたが、結果が出ていたはずなのに見逃してしまった事が悔しくて、営業担当者に怒りをぶつけるしかなかったのだ。
そしてもう少し現場が気を利かせて対応出来なかったものかと、補償を求めたい気持ちを押さえられなかったのである。
信用を得たら頼ってくれる
しかし、その若い苦情係の真摯な受け答え、業務内容にミスはないが依頼者を怒らせてしまった事については自社の責任を認めて躊躇なく謝罪した姿に、依頼者は次第に怒りを収めて行った。
そして、初めは無償のしかも結果が出るまでの無制限追加調査を要求していたのに、料金を上乗せしより充実した5名体制7日間委託式の調査プランに申し込んだのだ。
これこそが本当のクレーム対応である。
問題の責任について謝るのではなく、怒らせた事実に素直に謝る。
この若い担当者の良い点は、こちらへの怒りに対して素直に謝っている点だ。
それまでの私はよく、謝ったら負けだとか、こちらの非を認める事になり不利になると、訴訟王国アメリカの都市伝説を信じ込んで「残念です」とか「つらい気持ちです」などとのらりくらりと謝罪の言葉から逃げることが多かった。
だが、それでは相手の怒りの炎にますます燃料を投下しているだけだったのだ。
何も、全面的に相手の主張を認めて謝れと言っているのではない。
実際にこちらに過失があったかどうかは別として、サービスを提供し対価を得ている者の責任としてまずは、相手を怒らせてしまった事実に対してはしっかりと謝罪すべきだ。
詳細の検証は話し合いの中で進めて行けばいい。
毅然と対応して終了しても本当に関係が終了する
この場合、調査を受けた会社には何の落ち度もなかったので、最後まで私が担当なら依頼者の指示に従ったまでだと、質の悪いクレーマーとして対応し、頑として要求をはねのけたであろう。
そして、恐らく依頼者側も何も言い返せず引き下がったことだろう。
ただ、その契約はそこで終了し、依頼者はその会社の不満をよそでぶちまけ、友達に言いふらし、
同業他社へと駆け込みもっと高価な調査プランに金を突っ込んだはずだ。
クレームではない。要望なのだ。
クレーマーは会社の商品の用途に過大な結果を期待したり、使い方を間違えたりしてクレームをいれてくる。
だが大抵の場合、それはクレームではなくお客様の大切な私たちの会社の改善に向けた「要望」だ。
いい意味での 「苦情」なのだ。
それに気づいたことが大きかった。
余程理不尽な事でない限り、私は顧客からの苦情をクレームと呼ぶことは無い。
常に「要望があった」と表現している。
要望、苦情であればそれを解決してあげる事で喜ばれるはずなので、とても良いアクションだ。
要望と言い換えるそれだけで、前向きに解決策を考えられるのである。
それでも、そんなありがたい指摘をしてくれる顧客に対し、多くの担当者は仲間内で危険人物のレッテルを貼ってしまう。
そこに向上心もお互いを高めあう雰囲気も無い。
あるのは、共通の敵を作り出しそれをあざ笑い、傷を舐め合う自己保身と自己正当化だけである。
そんな空気は、お客様にも伝わってしまう。
この人はクレーマーだから問題になっても仕方がない、悪いのは向こうの方だとばかりに気が大きくなり、お客様をぞんざいに扱ってしまう。
そうなると益々事態を悪化させてしまい、マネージャーや役員が出て来て頭を下げることになる。
やがて内外からのあなたの評価は下がり、自らの首を絞めることになるのだ。
あなたもこれからは今までクレームと言っていたものを、「要望」と言い換えてみる事をお勧めする。
クレーム対応の目的とはは何か?
真実をつまびらかにして誤解を解くことではない。
いやいや、自分はそんないい加減な対応はしない。クレームには真摯に、毅然と対応し、丁寧に事実を説明し誤解を解いている、という場合も同じだ。
まだまだクレーム対応の本質を分かっていない。
確かにクレームの多くは相手の事実誤認や勘違い、理解不足からくる場合が多い。
自社のサービスに関する事であるなら圧倒的にこちらに分がある。
じっくり丁寧に説明して相手の誤解を解くことは簡単に出来るだろう。
最終的にはこちらにも僅かに非があったとしても、言い訳を考え、過失割合を損得勘定し、妥協できる解決策を提示して終わらせたりするのである。
だがそれは、単に相手の間違いを指摘し、自分の正当性を主張したに過ぎない。
或いは、取ってつけたような完璧な弁明で相手を黙らせただけ である。
間違いを指摘され、都合よく言い訳をされた相手は理論的に言い返せない状況、いわゆる論破されてしまった訳だ。
論破したら負けである
相手を論破する。
ビジネスの世界でこれをやってしまってはおしまいだ。
教師から生徒、師匠から弟子など明白に相手が教えを乞うている場合など例外を除いては、一般の人間関係でもやってはいけない。
例え相手が間違っていたとしても、論破してしまってあなたがスッキリしたとしても
その後の信頼関係、交友関係が続くだろうか?
論破された顧客は、間違いを正してくれてありがとうと思うだろうか?
答えは簡単だ。何も言い返せないだけでただ気分を害し、
二度と戻ってくることは無い。
クレーム対応において、事実を明らかにし、こちらの正しさを主張して相手が納得したように見えたとしても、決して満足しているわけではない。
議論に勝ってビジネスに負けたことを意味している。
現実には論破して相手を黙らせただけでクレーム処理が終了したと思っている担当者の何と多い事か。
でも、誤解を解いてこちらが正しいと理解してもらわねば、クレームが終わらないではないか?と訴えるものもいるだろう。
確かに、誤解を解くことこちらの主張を通す事は必要である。
だが、論破はしない。ここから本当のクレーム処理が始まる のである。
自分のファンにする
クレーム処理の本質は苦情を訴えてきた相手を自分のファンにする事である。
言われてみれば納得のはずだが、この考えを持ったクレーム当事者に出会ったことはほとんどない。
ほとんどの担当者が先に述べたようないわゆる「事を終わらせる」事を最終目標としている。
本当のクレーム処理の目的は、相手を黙らせることではない。相手があなたを指名して次のサービスを買ってくれることである。
ここを間違えてはいけない。
クレーム処理の本質は事実を説明し誤解を解く事ではない。自分のファンになってもらう事だ。
まとめ
クレームの大半は感情だ
感情にフォーカスする
クレームの大半は大金を叩いてやっと手にしたサービスが自分の望むものと違った時の怒りと悲しみの感情から来ている。
自分の確認不足、思い込みによる誤解だったとしても、その、残念な思い、悔しさをお金を払った業者にぶつけるしかないのだ。
そこに思いを巡らせなければならない。
顧客の思いに寄り添わなけらばならないのだ。
クレーム対応で中々怒りが収まらないお客様は、感情を理解されないことに怒っているのだ。
出来ないクレーム対応は相手の立場に立っていない
結局、相手の立場に立つかどうかなのだ。
自己保身だけを考えては見透かされてしまう。
基本中の基本だ
同じ方向を向け
繰り返して言うが、正論をぶつけて論破しても相手の自尊心を傷つけるだけだ。
論破して良いことなど一つもない
向き合うのではない同じ方向を向くのだ
それではどうやって相手の理不尽な要求を取り下げさせ、逆にこちらの要求を聞いてもらえるようにするのか?
それはまた次回の記事で具体的に解説したいと思う。
クレームに勝つ本当の意味は?
どんな仕事でもほとんどの場合最終的には顧客がいて、会社同士であってもいわゆる客商売である。
商売だから、裁判の様に相手との勝ち負けを語るのは好きではないが、
敢えてクレーム相手に勝つ意味としてクレーム処理の目的をまとめると、
証拠をそろえて論理的に説明をして相手に挙げたこぶしを下ろさせることで勝ったと思っている担当者が多すぎる。
本当の勝利とは更に商品を追加して購入してもらう事なのだ。
今日からあなたもお客様からの「クレーム」を「要望」に置き換え、どうやったらファンになってもらえるだろうと考えながら対応してみてはいががだろうか。これまでの気持ちが180度変わることを実感できるはずだ。