怒りの感情をコントロール出来ない人は場当たり的に感情に振り回され、人間関係を難しくし、自らの幸福を阻害し波のある生活を送る羽目になる。実際に無意識にそのような生活を送っている人は多い。アンガーマネジメントを知らない人と実践している人との生活の質の差は開いていくばかりだ。
怒りは人生の失敗を招く
若いころの失敗
私が20代の頃、ある工事現場で交通整理のアルバイトをしていると、そこに50代位の口の悪いやさぐれた感じの作業員がやってきて作業を始めた。その取引先の社員の男は私の立ち位置だとか誘導の仕方にやたらと注文を付けて来る。
こちらに立たせたと思えばあちらで誘導しろという、あちらにいればこちらで問題が起こるといった状態で、どうもうまくいかない。ついには、「そんな所に突っ立っているんじゃない。使えない奴だ。」などと人格を否定するような言葉で衆人の前で罵倒する始末だ。
若い私はついに、あんたの指示でこうなったんだろ、ふざけるな、とばかりに言い返し激しい口論となった。嫌、一方的に私が大声でわめきたてるといった状態で、すぐに責任者がやって来て仲裁してくれたのだが、それ以来私がその現場に呼ばれることは無かった。
よく考えれば、相手も口が悪いと評判の感情むき出しの人物で、なるほど、その年になるまで役職も無いという現場人生だったのだ。
反省した私は、時間を掛けて怒りの感情をコントロールする事に取組み、自分なりの法則を作り上げていった。
怒りの発生は抑えられない
怒りの感情がその後の課題や改善点の発見、自分を成長させる起爆剤になる事もある。そもそも怒りというものは自然に備わった人間本来の感情なのだから、怒りそのものを無くすことは不可能だ。
それを一瞬で抑え込めるか、引きずるかで人生の質が変わってくるのである。
上質な心で発生した怒りを抑える
人生は平坦ではない。デコボコ道の上を走る車の中にいるようなもの。怒りや悲しみなどの起伏の上を通過する時の衝撃は避けられない。
トラックや商業車、大衆車の多くは安い材料を使っているので路面の衝撃を直接乗り手にダイレクトに伝えてしまい乗り心地が悪い。
ただ、自分の乗り物を高級車に替えれば、しなやかなサスペンションで下から突き上げる衝撃を一瞬で吸収し、多少のデコボコ道もスムーズに走り抜けていく。
あなたの心はオンボロの大衆車や商業車ではない。心を高級車の様に扱って余裕を持ち、どんな衝撃も柔らかくいなして心地よい乗り心地で人生のゴールまでたどり着こうではないか。
1.コントロール出来ないものはあきらめる
怒りの原因が自分にコントロール出来るものかどうかを判断しよう。
多くの出来事が実は自分にコントロール出来ないことに驚くだろう。
- 相手が不真面目な態度である。
- 良かれと思ってアドバイスしてあげたのに無視された。
- 頼んだ商品が不良品だった。
- モタモタしている車に前をふさがれて遅刻しそうだ。
相手がある事はほとんど、自分ではコントロールできない事だ。
相手の態度が悪いのも、自分の注意を聞くのも聞かないのも、相手次第だ。あなたにはどうすることもできない。
頼んだ商品が違うのも、道路の渋滞も、あなたがやった事ではないどうしようも出来ない結果だ。
相手の行動の全ては相手次第
西洋の有名なことわざをご存じだろうか?
馬を水辺につれていく事は出来ても、水を飲ませる事は出来ない。
水を飲むかどうかは馬が決める事であってその結果は自分にはどうすることもできない、というのだ。
つまり、相手の行動は相手が決める事であって、それをコントロールできない以上諦めて相手にゆだねるしかないのだ。
たとえ、自分の期待通りに物事が進まなくてもそれはコントロール出来ないものだという事を理論的に理解しよう。
それに怒ってみてもしょうがないと思えるようになる。
ましてや、芸能人の不倫報道、借金問題などに怒ることなど本当に無意味なのである。
意味のないことに怒る事こそ時間の無駄である。
2.時間の無駄を考える
時間はあなたの人生だという事を意識しよう
嫌いな相手の事を考えるのは自分の人生の時間を無駄に消費しているのに他ならない。
この相手が自分の人生にとってどれ程の影響があるのか?と考えてみよう。
恋人でもあるまいし、何故嫌な相手の事を四六時中考えているのだ?
嫌いな相手の事を考える?
あなたの人生にとってどれほど重要な事だろう?
嫌いな相手の為に生きているのではない
職場の同僚や付き合いのある知り合いが嫌で、どうしても会わなければならない場合、その時だけアンガーマネジメントのテクニックを使って我慢しよう。相手の事を意思疎通の出来ない人だと割り切って考えないようにするのもその一つだ。あなたは嫌いなあの人の機嫌を取るために生きているのではない。自分の時間の無駄だと意識するのだ。
時間の無駄どころか、ネガティブな感情の時間の長さは幸福度に影響を与えるのだから、相手と離れた時は切り替えて忘れる事だ。
くよくよ考えても仕方がないと論理的に考えろ
不幸な人ほど大抵の時間をネガティブな感情を懐から取り出して、いつまでも眺める事に費やしている。
人生にはもっと楽しい事を考える時間があったというのに、目の前のチャンスそっちのけで、終わった事をくよくよメソメソ考え膝を抱えて周りにある幸せを見ていないのだ。
人間関係に恵まれない自分をいつまでも憐れむ自己憐憫(じこれんびん)は最も捨てるべき感情だ。自らの可能性を殺し、周りに気を遣わせ、人が去っていく。そんなものとは今すぐにおさらばするべきだ。
3.今やるべきことに集中しよう
感情を引きずらないために次を考える
問題があるから、一瞬怒りの感情が湧いてくるのは仕方のない事。
それを2秒程味わったら後は、やるべきことを考えるだけだ。
怒りの感情など要らない
相手が話を聞いてくれないなら、「あら、残念」位に考えて切り替えよう。
商品が壊れていたり、間違っていたりしたら、返品や交換の手続きに取り掛かれば済むことだ。感情など要らない。
渋滞に巻き込まれたら、そこでやれることは無い。次の段取りを考えて関係者に連絡しよう。感情など要らない。
喜びや感謝、ワクワク感といった正の感情はいくら引きずっても良い。負の感情は全く不必要なので即座に切り捨てよう。
4.課題の分離
相手の事情など余計なお世話である
相手があなたに怒っていると、反応して何で自分が怒られなきゃいけないんだと、怒りが湧いてくるだろう。
その時は、相手とあなたは違う人間で、相手があなたに怒っていようとそれは相手の課題で、あなたには関係ないのだと、一線を引いて考える事だ。
相手が無礼な態度をしてきた時
タレントの明石家さんまは人に対して腹が立ったことが無いという有名な話があって
「こいつアホなんやな」と思うと腹が立たないという。
無理やり思うというよりも本当に、「こんな礼儀も分からないのはこの人はアホなんだ。」と思うそうである。
人を怒らせるような人は、未熟なせいで態度に出ている可哀そうな人である。
また、掲示板2ちゃんねるの創始者でタレントのひろゆき氏は基本(適切に)相手を見下していれば腹が立たないという。
小学生にバーカと言われても相手にしないし、野良犬に嚙まれても痛いとは思うけれども真剣に抗議したりしないだろう、と言います。
アドラー心理学の重要ポイント「課題の分離」
これらの例は、ユング、フロイトと並ぶ心理学者アドラーの課題の分離という理論で説明できる。
「その選択の結果、責任を最終的に引き受けるのは誰か?」という観点で、自分の課題と他人の課題は分離しなければならない。
至ってシンプルな考え方だ。
アドラー心理学の第一人者である岸見一郎さんの有名な著書「嫌われる勇気」にその真髄が書かれているので私はバイブルとしている。
今、目の前の相手が不機嫌になっている。それは相手の課題であり、あなたに機嫌を取る義務はない。
私の事でこの人は怒っているな?あとは、そちらで解決してください、と考えておけばよい。
ついつい他人の事を心配して口を出したり、怒ったりすることもそれは他人の心の中に土足で踏み込むことと同じだと考える。
他人の課題には介入せず、自分の課題には介入させない、と考えるのだ。
そうすれば、対人関係の問題はほぼ解決する。簡単な方法だ。
反応すれば相手の思う壺だ
付け加えるなら、相手があなたに対して怒っている場合は、その方が都合が良いからそうしているのだ。
怒りを表す事であなたが相手に譲歩してくれる、相手の思う通りに行動してくれることを目論んでいるに過ぎない。
その事に気づけば、無視して冷静になるに限る事は容易に理解できるだろう。
自分の価値は自分で決めるからほっといてくれ
上の例の様に、誰かに馬鹿にされた時も同じだ、課題の分離を思い出そう。
自分の価値は自分が良く知っている。
馬鹿にされても自分の価値は変わらない。
相手がどう思おうが相手の課題である。あなたの価値を全く分かっていない愚か者にすぎないから放っておくべきだ。
相手と自分の課題を分離してしまえ。そいつは未熟で、石ころや野良犬と同じだ。
あなたにはもっと大切な人間関係があり、あなたの人生があるのだ。
どうだろう。ここまでで怒りの感情の80%程度は収まっているはずだ。
5.ポジティブでネガティブを抑え込む
感謝しながら怒れない。
友人、家族、上司、同僚など、普段から付き合いのある人物の場合、更に怒りの感情を抑える必要がある。
その場合、相手のポジティブな面にフォーカスするのだ。
笑顔を作りながら怒れないのと同じでポジティブとネガティブな感情は同時には存在し得ないようになっている。
まず相手に感謝しよう。
相手のおかげで助かっている事は複数あるはずだ
これまでの相手に助けられた事に比べれば、今回の怒りは小さなことではないか?
そう考えた瞬間、怒りがスーッと消えていく感覚が分かるだろう
相手の良い所を考える
直接感謝する事が思い浮かばない関係だったとしても、必ず相手の良い点は見つかるはずだ。
その人は仲間思いの熱心な所があるかもしれないし、ぶっきらぼうだが仕事熱心、子煩悩かもしれない。
相手のこれまでの功績など。他にも様々に良い面を考える事で「まあ、良いか」と許す気持ちが芽生えてくるものだ。
6.期待しない
期待するから腹を立てる
- 頼んだ商品が間違っていた。
- 不良品だった。
- 仲間が遅刻をした。
- 子どもが勉強をしない。
こういった事に怒りを覚える事もあるだろう。
アンガーマネジメントが身についてくるとこれらの処理も簡単だ。
要は相手に期待をしているから怒りを感じるのだ。いいかえればあなたの自己中心的な考えが怒りの素になっているから、反省しなければならない。
商品が違っていて怒るのはリクエストを受けたものが100%間違えないと期待しているからだ。実際はヒューマンエラーというものは必ずあるものだ。
不良品もそう。製品のなかに不良品が発生しないなどありえない。期待しすぎである。すぐに、返品交換だ。それだけだ。
相手が全く遅刻しないと信じ切って期待する方が間違っている。プランBを考えておこう。
子どもにも都合がある、いつでもあなたの期待通り勉強するとは限らない。勉強したら褒めてやろう。
腹を立てるのは甘えているから
全ては自分の都合の良いように期待しているから怒りの感情が湧いてくるのだ。
甘えてはいけない。期待する事それは依存している事と同じだ。
人に依存するあなたは自立していないのだ。
誰にも完璧を求め、信用してはいけない。ワザとではなく、意図せず裏切られることもある事を忘れない事だ。
これは私の座右の銘だが、問題の大きさは自分自身の大きさである。喜んで受けて立とう。
どんな大きな問題にも「ドンと来い」と構えてねじ伏せる気持ちでいる事だ。
それが、自立した人間の姿であり、あなたが大きく成長し続ける姿勢である。
ここまでくると怒りの感情を持てと言う方が無理に思えてくるのではないだろうか。(笑)
7.観念を変える
教育されて信じているから厄介
最後に観念の話をしよう。
人それぞれ価値観が違うもので、それを無意識に正しいと信じ込んでいる。それを観念と呼ぶ。
観念とはその人の物事はこうあるべきだという価値観である。
その時代、地域、年代で共通して持っているべき考え方で、「常識」と置き換えてもいいだろう。
あなたは、常識を疑えという言葉を一度は聞いたことがあるだろう。もちろんそれが出来ないから言われ続けているのだ。
常識とは多くが子どもの頃から教育されて無意識に物事はこうあるべきと刷り込まれている。
それを変えるのは容易ではない。だが、意識すれば誰でも出来る。
固定観念「べき」をやめる
そのいわゆる凝り固まった「べき」論を言い換えれば固定観念という事になる。
価値観の違いを認めようと意識していても、自分の中でどうしても強く信じて他を認められない固定観念は無意識なので、そこに合致しないものに対して怒りを感じてしまう。
- 年上は敬うべきだ
- 仕事は汗水たらして働いてこそだ
- お茶を出すのは女性の方が良い
- 泣くな男だろ
そういった固定観念があなたの怒りの感情を呼び起こす火種になる。
年上を敬わない人もいる。楽して儲ける事は悪い事ではない。今の時代男らしさも女らしさもない。
人それぞれなのだ。
固定観念は捨て去るべきだ。これだけは「べき論」で語っておこう。
自分の頭に「○○であるべき」と聞こえてきたら、固定観念ではないか?と自問自答してみよう。
怒りがスッと収まるはずだ。
まとめ
これまでの話、怒りを抑えるアンガーマネジメントの7つのテクニックをまとめよう
- コントロール出来ないものはあきらめる
- 時間の無駄を考える
- 今やるべきことに集中しよう
- 課題の分離
- ポジティブでネガティブを抑え込む
- 期待しない
- 観念を変える
これらを、順番通りでなくても、覚えられることだけでも少しずつ練習していこう。
怒りの悪影響を忘れてはならない
スターウォーズの大きなテーマ 怒りの悪影響
映画スターウォーズの根底に流れている教訓は、怒りの感情は自らをダークサイドにおとしめる、というものだ。
始めは善良だったアナキン・スカイウォーカー少年はやがて禁じられていた怒りや恐れなどのネガティブな感情によって強大な暗黒面の力を身に付け、悪の化身ダースベイダーへと身を落としてしてしまう、という物語だ。
その映画で出てくるジェダイマスター・ヨーダの言葉がこれだ。
ジェダイの力はフォースよりもたらされる。だが、ダーク・サイドに気をつけるのだ。怒り、恐怖、攻撃性。これらはフォースのダーク・サイドだ。
怒りの感情によって一時的に強大な力を引き出したとしても、それは悪の道具に使われるのだという教えである。
ヨーダは負の感情を徹底的に排除せよと説いている。
人間だもの、では成長しない
たとえ、表に出さずとも怒りの感情を持つことは良くない事である。
人間だもの、どうしても怒ってしまうのはしょうがないよね、たまには吐き出さないとストレスがたまるよ、ではいけない。
そんなものは怒りの感情のコントロール=アンガーマネジメントが出来ない者の言い訳だ。
私も完ぺきではないし、もしかしたら(違法行為に対する以外の)怒りを完全に無にする事は出来ないかもしれない。
しかし、それを許してしまってはいけない。
冒頭に述べたように、怒りの発生を無くすことは出来ない。
怒りが課題改善の起爆剤になる事もある。
常に感情のコントロールを意識し、せめて怒りが30秒も続いたら自分に負けたのだと反省し、また弱い自分に打ち勝つ努力をしていく。その繰り返しだ。
幸福感に影響を与える負の感情
ポジティブな感情の時間の長さと幸福度は比例している。
ネガティブな事を考えている時間が長ければ長いほど、その人の幸福度は低かったという統計結果がある。
怒りや復讐心に燃えながら仕事をし、人並み以上の収入を得たとしてもその人は決して幸福だったとは感じないだろう。
逆に、ポジティブな感情を持った時間が長ければ長いほど人生の幸福度は高くなるのだ。
どうせ生きるなら幸福に生きたいものである。
人それぞれ。相手のポジティブな面を認めよう。
相手と自分の課題を分けて、余計なお節介でトラブルを起こさないようにしよう。
その上で一つの組織、共同体としてお互いに貢献しながら幸せに生きて行けば良いのだ。
結局、怒りの感情のコントロール=アンガーマネジメントはこの考えに行きつくのかもしれない。
我慢しようではなく、練習しよう
感情のコントロールはただ、冷静になれと自分に言い聞かせるような精神論で何とかしようとしても上手く行くことはなく、普段意識してトレーニングしなければいつまでたっても身につかないものだ。
アンガーマネジメントは自己の健全な精神を保ち日々を幸福に過ごしていくために無くてはならない技術なのだが、ほとんどの人が重要性に気づかないか、知っていても実践しようとしない。
今日、アンガーマネジメントの重要性と具体的なテクニックを知ったあなたは、ライバルたちを凡人とみなし、たちまち置き去りにする方法を手に入れた。
一回り大きな人間になって、これからの人生を感情に振り回されることなく、より幸福感に満ちたものにしてもらいたいと願うばかりである。